「一の宮通り」 地域で一番の通り目指して
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「一の宮通り」 地域で一番の通り目指して

買い物客や通勤・通学客でいつもごったかえしているJR大宮駅の 東口。 埼玉県の商都で、東京から高崎、宇都宮へ続く北の玄関口だ。 その駅東側を南北に走る旧中仙道から武蔵一の宮氷川神社、大宮 公園へと続く 400m余りの斜めの道が、ぼくの生まれ育った「一の 宮通り」だ。   もっとも呼び方はいろいろある。通りの端にサッカーJリーグ、 大宮アルディージャのオフィシャル・ショップがあり、チームカラーの オレンジが通りのあちこちに目立つことからオレンジロードという 名も。通りに美容院、ネイルサロンが20軒以上ひしめくのでエステ 通りと呼ぶ人もいる。
昔の人には岩槻新道と言った方が分かりやすいかも。旧16号線の東京環状道路の一角になっていたからだ。バスが走り、通りには八百屋が3軒、肉屋が2軒。お菓子屋だって3軒あったし、魚屋もあった。みんな瓦葺の木造2階屋で、夕方ともなると威勢のいい兄さんの物売りの声が聞こえたが、スーパーとコンビニの出現でいつの間にか姿を消した。   代わってビルが林立しているのが、現在の一の宮通りだ。でも、駅から神社、公園へと続く道は変わらない。神社で祭りがあるときや、公園のサッカー場でJリーグの試合のあるときなどは行き交う人が引きも切らない。  

▼月1回の清掃活動

その一の宮通りで毎月の早朝清掃が始まったのは、7年前の5月30日(ゴミゼロ)の日だった。空き缶やコンビニおにぎりの包装紙などが通りに雑然と落ち、ときに植え込みに突っ込まれているのを目にした有志が立ちあがった。   Aさん(59)は会社を早期退職し、日本とオーストラリアを行ったり来たりしている優雅な身分だが、外国生活が長い分、日本のアラが目につく。「スイスの街にはゴミなど落ちていない。京都だって、横浜だって、観光客が行くような所はきれい。そうでなきゃ人は来ない」と周りの人をけしかけた。   Nさん(80)は呼び掛けに応じてちり取りとほうきを持って集まってくれた一人。昔八百屋で、今ビルオーナー。ゴルフ好きでアルディージャの大のファンである。一時はJリーグの試合に合わせ、全国を応援して回った。軽い脳梗塞を起こし、今は休みがちだが、よく日焼けした赤ら顔は快活で健在だ。   毎月第1日曜日午前8時からの早朝清掃はもう80回を数え、今は商店会の主催行事となった。通りには二つの商店会があり、ぼくは一方の会長を3年前から務めている。仕事は不動産貸付業だが、元々は菓子屋の長男坊である。   割ぽう着姿が似合うEさんは長靴屋の奥さん。店はビルに建て替えられたが、商品は昔とあまり変わらない。新潟出身で気が良く、いつもニコニコと参加してくれる。早朝清掃でいろんな人と出会い、会話が生まれる。オレンジ系の服と高いハイヒールの美容院店員や、整体のお兄さん。この人は栃木・鹿沼の生まれで、通りの出店情報など今や地の人より事情通だ。早朝清掃の常連はこのところ10人弱だが、別の清掃活動をしている中高生の一団と交わす挨拶はうれしいし、これからも地道に続けていきたい。    

▼花壇を自主植え替え

清掃活動は花壇の整備にも広がっている。一の宮通りには9本のハナミズキの街路樹と34個のプランターがあるが、行政、業者任せになっていた。立ち枯れた花が無残な姿をさらし、タバコの吸い殻が灰皿代わりに捨てられているのを見ることは珍しくない。   商店会の予算が少ないこともあって、昨年から花の苗を自分たちで植え替えることにした。パンジーなど冬の花からベゴニア、日日草など夏の花へ。夏の花から冬の花への年2回である。市からもらえる苗を父たちのときは直接植えていたが、段々面倒になり、いつの頃からか業者に頼むようになっていたのだ。   どうなるか心配したが、若手のY子さんらが奥さん連中に連絡して人手を集め、土、肥料なども手配した。3時間ぐらいで手際よく植えられた苗は例年以上に花を咲かした。自分が植えた花なら、思い入れがあるから水遣りもやるし、道理である。   それだけではない。街路樹の根元にも「寂しいから」と、余った苗やギボウシなど野の花、メキシコ朝顔などを植え出した。それも可愛く咲き、Jリーグ取材に訪れたTVレポーターが取り上げてくれたりした。    

▼〇三八(おーみや)カフェ

大宮駅東口では春に、区役所前やお寺、商店街の街角など13会場を舞台にあらゆるジャンルの音楽、アート、パフォーマンスを同時多発で発表する「アートフルゆめまつり」という催しがある。始まったのは5年前。みんながつくり手を標榜し、市民が主体となって企画、運営している。   一の宮通りの四つ角も会場の一つで、この春もアンデスの民俗音楽や、アイルランドの音楽が演奏され、観客が演奏者に合わせて踊りだすなど盛り上がりを見せた。   アートフルゆめまつりに合わせて一の宮通りでは、駐車場を利用し「〇三八(おーみや)カフェ」を開くグループも。中心メンバーのKさん(39)は「狂」の字が付くぐらいのアルディージャ・ファン。大きなオレンジの布を会場に垂らし、白と黒の生地で〇三八をかたどったクッキーや、〇三八をデザインした手ぬぐいを販売した。極め付きは38㌢の特大ホットドッグを380円で売り出すなど〇三八に徹底的にこだわった。   一の宮通りはさいたま市の顔だということで、市でも電線の地中化や歩道を整備する計画があるようだ。ぼくらも「さいたまで一番の通りにするんだ」と張り切っている。    

清掃で会話が弾む街の朝 キンモクセイの香りするころ           (新井孝治)

 

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